映画「スキャンダル」は、アメリカのニュース業界を揺るがせた実際のスキャンダルを描いた作品です。
フィクションではなく、現実に起きた事件をもとにしているため、その衝撃は大きなものがあります。
作品を観たときの率直な感想として、ただのエンタメではなく、社会問題として考えさせられる内容だと感じました。
映画「スキャンダル」実話の事件とは?
映画「スキャンダル」は、アメリカの大手ニュース局であるFOXニュースで実際に起きたセクハラスキャンダルを題材にしています。
物語の中心となるのは、FOXニュースの会長兼CEOを務めていたロジャー・エイルズと、彼による長年のセクハラ疑惑です。
映画は、この事件が発覚し、最終的にロジャーが辞任に追い込まれるまでの過程を描いています。
このスキャンダルが明るみに出たのは2016年のことでした。
当時、FOXニュースはアメリカで圧倒的な影響力を持つニュース専門チャンネルで、保守派の視聴者から強く支持されていました。
特に共和党寄りの報道姿勢が特徴で、政治的にも大きな影響力を持つ存在だったのです。
そんなFOXニュースの成功を支えたのが、ロジャー・エイルズでした。
彼は1970年代からメディア業界で活躍し、FOXニュースを立ち上げた人物でもあります。
報道のあり方を根本的に変え、「視聴者が求めるニュースを提供する」という方針で、FOXニュースをアメリカ最大のニュースチャンネルへと成長させました。
しかし、その裏では、女性キャスターたちに対する長年にわたるセクハラが行われていたのです。
ロジャー・エイルズとは?
ロジャー・エイルズは単なるニュース局の経営者ではなく、政治の世界でも大きな影響力を持っていました。
もともとテレビプロデューサー出身で、1960年代から政治の世界に関わり始めました。
特に有名なのは、大統領選挙でのメディア戦略です。
ロジャーはリチャード・ニクソンのメディアアドバイザーを務め、テレビを駆使した選挙戦略を考案しました。
その後もロナルド・レーガンやジョージ・H・W・ブッシュ(父ブッシュ)といった共和党の大統領候補をメディア面で支援し、選挙戦を勝ち抜く手助けをしました。
1996年にFOXニュースが設立されると、ロジャーはそのトップに就任。
ニュース番組の枠を超えた、エンターテイメント性の強いニュース番組を次々と生み出しました。
司会者には容姿端麗な女性キャスターを多く起用し、彼女たちにはミニスカートを履かせるなど、視聴率を意識した演出を徹底しました。
こうした戦略が功を奏し、FOXニュースはわずか数年でアメリカ最大のニュースチャンネルへと成長しました。
しかし、その成功の裏で、ロジャーは自らの権力を利用して、多くの女性キャスターに対してセクハラを行っていたのです。
実際の事件の経緯
2016年、FOXニュースの人気キャスターであったグレッチェン・カールソンが、ロジャー・エイルズをセクハラで訴えました。
これが、このスキャンダルの発端です。
グレッチェンは、元ミス・アメリカという経歴を持ち、FOXニュースでは長年にわたりニュースキャスターとして活躍していました。
しかし、2013年頃から彼女の立場が徐々に悪くなり、人気の高い朝のニュース番組から視聴率の低い昼の番組へと異動させられてしまいました。
そして、2016年には契約を打ち切られ、FOXニュースを去ることになります。
グレッチェンは、この降格と解雇の背景にはロジャー・エイルズのセクハラがあったと主張し、訴訟を起こしました。
訴えによれば、ロジャーは彼女に対して繰り返し性的関係を要求し、それを拒否したために不利な扱いを受けたというのです。
この訴えが公になると、FOXニュースの内部は大きく揺れ動きました。
最初のうちはロジャーを擁護する声も多く、「言いがかりではないか」と疑う人もいました。
しかし、グレッチェンの訴えをきっかけに、他の女性キャスターたちも次々と証言を始めました。
次々と明らかになる被害証言
グレッチェンの訴えが公になった後、FOXニュースの元・現役キャスターたちが続々と証言を行い、ロジャーの過去の行動が次々と明るみに出ました。
その中には、FOXニュースの看板キャスターであったメーガン・ケリーも含まれていました。
メーガンは、共和党大統領候補討論会でドナルド・トランプに厳しい質問を投げかけ、一躍注目を浴びた人物です。
そんな彼女も、かつてロジャーからセクハラを受けたと証言しました。
また、ロジャーがFOXニュースを立ち上げる前から同様の行為を繰り返していたことも発覚。
数十年にわたり、権力を使って女性キャスターたちを支配し、従わせていたのです。
これらの証言が次々と出てきたことで、FOXニュースの親会社である21世紀フォックス(現:ウォルト・ディズニー・カンパニー)は事態を重く受け止め、内部調査を開始しました。
そして、同年7月、ロジャー・エイルズはFOXニュースの会長兼CEOを辞任することになります。
ロジャー・エイルズ辞任
ロジャーの辞任は、アメリカのメディア界にとって大きな出来事でした。
FOXニュースの成功は彼の手腕によるところが大きかったため、彼の退任後、局の運営がどうなるのかが注目されました。
結局、FOXニュースはロジャーの後任として、メディア王ルパート・マードックが直接指揮を執ることになりました。
しかし、ロジャーの辞任後も局内の混乱は続き、彼に近い幹部やキャスターの何人かがFOXニュースを去ることになりました。
映画「スキャンダル」と実際の事件の違い
映画「スキャンダル」は、FOXニュースで実際に起こったセクハラ事件を題材にしていますが、100%史実通りというわけではありません。
実際の出来事を忠実に描きながらも、映画的な演出や脚色が加えられています。
特に、キャラクターの設定や細かいエピソードにはフィクションが混じっています。
では、映画と実際の事件にはどのような違いがあるのでしょうか?
架空のキャラクター「ケイラ・ポスピシル」
映画の主要キャラクターのひとり、マーゴット・ロビーが演じた「ケイラ・ポスピシル」は、実在の人物ではありません。
実際の事件では、FOXニュース内でセクハラを受けた被害者の名前はすべて公になったわけではなく、証言者の中には匿名のままの人も多くいました。
ケイラは、そのような被害者たちの証言や体験をまとめて作られた架空のキャラクターです。
映画の中でケイラは、ロジャー・エイルズのオフィスに呼ばれ、スカートをめくるよう要求されるというショッキングな場面を経験します。
こうした出来事は、実際に複数の女性キャスターが証言している内容に基づいています。
つまり、ケイラというキャラクター自体は架空ですが、出来事は、現実に起こったことを集約したものなのです。
グレッチェン・カールソンの証言と実際の影響
ニコール・キッドマンが演じたグレッチェン・カールソンは、実際にロジャー・エイルズを告発したFOXニュースの元キャスターです。
映画でも、グレッチェンが最初に告発を行い、FOXニュース内で大きな波紋を広げるという流れは史実通り描かれています。
しかし、映画ではグレッチェンが他の女性キャスターと直接協力する場面はほとんどありません。
実際には、彼女の告発が公になった後、FOXニュース内外の女性たちが次々と証言を行い、それがロジャー・エイルズの辞任につながる決定的な要因となりました。
また、映画ではグレッチェンがロジャーとの会話を録音していたことが後半に明らかになりますが、この点は史実と異なります。
実際には、グレッチェンの訴訟は証言と調査報道によって支えられたもので、録音が決定打になったわけではありません。
メーガン・ケリーの立場と行動
シャーリーズ・セロンが演じたメーガン・ケリーは、FOXニュースの看板キャスターであり、ドナルド・トランプとの討論会でも注目を集めた人物です。
映画では、メーガンがロジャー・エイルズからのセクハラについて沈黙していたものの、最終的には証言を決意し、事件の展開に大きな影響を与える様子が描かれています。
しかし、実際のメーガン・ケリーは、映画ほど長く沈黙を続けていたわけではありません。
FOXニュース内での問題に早い段階から違和感を覚えており、ロジャーとの関係にも慎重な態度を取っていました。
また、証言は確かに事件に影響を与えましたが、映画ほど劇的な展開ではなく、より慎重に進められていました。
映画と現実の時間軸の違い
映画では、事件が短期間のうちに一気に進展したように描かれています。
しかし、実際のFOXニュース内でのセクハラ問題は何年にもわたって続いていました。
グレッチェン・カールソンが訴訟を起こしたのは2016年ですが、それ以前からFOXニュースでは「男性上位の文化」が根付いていたと言われています。
また、ロジャー・エイルズが辞任するまでの流れも、映画では比較的シンプルに描かれていますが、実際には内部調査が行われ、親会社である21世紀フォックスの経営陣が慎重に対応を進めるなど、もう少し複雑なプロセスを経ています。
「#MeToo」運動との関連
映画では、FOXニュース内のセクハラ問題が「#MeToo」運動の流れの中で語られていますが、実際にはこの事件が発覚したのは2016年であり、#MeTooが世界的に広がるきっかけとなったハーヴェイ・ワインスタインの事件よりも前のことでした。
しかし、この事件が報道されたことによって、のちに「#MeToo」運動が広がる土台ができたとも言えます。
FOXニュースの事件があったからこそ、他の業界でも女性たちが声を上げるきっかけになったとも考えられます。
まとめ
映画「スキャンダル」は、ただのエンタメ作品ではなく、実際に起きた事件をベースにした社会派ドラマです。
FOXニュースでのセクハラ問題を描きながら、メディア業界の権力構造や、女性が声を上げることの難しさをリアルに伝えています。
実際の事件との違いはあるものの、大筋では事実に忠実であり、ニュースでは伝わらなかったキャスターたちの心情が描かれています。
特に、シャーリーズ・セロンやマーゴット・ロビーの演技が光り、映画としても見ごたえのある作品になっています。
この映画を観ることで、メディア業界の闇や、社会がどう変わってきたのかを改めて考えさせられました。
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