この映画を観終わったあと、しばらく何も言葉が出てきませんでした。
白黒の映像なのに、色彩よりもはっきりと心の奥に残る。
孤島の灯台という限られた空間、2人きりの男たち、そして容赦ない嵐と、容赦ない内面の崩壊。
なんとも言えない感覚に包まれる映画です。
映画「ライトハウス」解説
この作品は、2019年に公開されたアメリカ映画です。
監督はロバート・エガース。
神話や古典文学の引用がちりばめられた、まさに“語り継がれる狂気”とでも言いたくなる一本でした。
物語のベースには、1801年にイギリス・ウォールズで実際に起きた「スモールズ灯台事件」というエピソードがあるそうです。
灯台に閉じ込められた2人の男が徐々に狂っていくというその事件は、海辺の仕事に潜む孤独や恐怖の象徴のようでもあります。
ライトハウスはそれを、さらに神話的な世界に引き上げたような作品でした。
キャストはウィレム・デフォーとロバート・パティンソン。
たった2人の演技合戦とも言える緊張感がたまらなくて、観ているこちらまで頭がおかしくなりそうになります。
映画「ライトハウス」あらすじ・ネタバレ!

最初のシーンから、ものすごい強風と波の音が襲いかかってきます。
小舟で島に着いたのは、ベテランの灯台守と、新人の青年。
たった4週間、灯台の維持と点灯作業のために2人だけで島に閉じ込められます。
ベテランの男はどこか不気味で、食事のたびに酒を勧めてくるのですが、新人は真面目すぎるほど真面目で、最初はその誘いを断り続けます。
ところが、この断りが気に入らないのか、どんどん命令が厳しくなっていくんですよね。
真鍮磨き、水槽掃除、屋根の修理、何でもかんでも新人に押しつけて、自分は灯台の光を管理するという一番大事な仕事だけを手放さない。
それも、「光は選ばれた者しか触れてはいけない」みたいな、意味ありげな態度をとるんです。
この時点ではまだ、「理不尽な上司と頑張る若手」みたいな構図で観ていたんですけど、カモメが出てきたあたりから空気がガラリと変わっていきます。
酒と嘘と嵐と幻想の地獄めぐり
老いた男が「カモメは死者の魂だ、手を出すと呪われる」と言ったにもかかわらず、若者はついに怒りを爆発させて一羽のカモメを殴り殺してしまいます。
このシーン、かなり衝撃的で、ここから全てが狂い出す感じがしました。
その直後、風向きが変わって嵐がやってきます。
予定されていた交代の船は来ず、2人は島に閉じ込められたまま、延々と雨と風に打たれ続けます。
やることもなくなっていき、やがて2人は一緒に酒を飲むようになり、妙な距離感が生まれます。
踊ったり、ケンカしたり、抱き合ったり。
まるで恋人のようで、敵のようで、鏡のようでもあります。
そして、若者の正体がじわじわ明かされていく。
実は名前も偽名だったとか、以前一緒に働いていた男の死に関わっていたかもしれないとか、酒に酔うたびに語る内容が少しずつ変わる。
どこまでが嘘でどこまでが本当なのか、もうわからなくなってきます。
それと並行して、人魚の人形を使った自慰、実際の人魚との幻想的な交わりなど、性的でグロテスクなビジョンが繰り返されるようになります。
このあたりは正直、夢なのか現実なのか、観ているこっちまで混乱してきました。
ラストの衝撃と、理解を拒む終わり方
酒がなくなると、2人はとうとう灯油まで飲み始めます。
もはや人間ではなく、何か別の存在になってしまったような錯乱ぶりでした。
朝、若者が目を覚ますと、老いた男の私的な日記を発見します。
そこには若者への悪口と非難が延々と書き連ねられていて、それを読んだ瞬間、彼は完全に切れてしまいます。
狂気のスイッチが入ったような目でした。
その後の展開は本当に恐ろしい。
殴り、埋め、生き埋めにし、斧で止めを刺す。
そしてついに手に入れた光の部屋。
憧れ続けたフレネルレンズに手を伸ばした時の彼の叫びは、歓喜というよりは発狂に近いものでした。
そして、最後の最後に待っていたのは…ネタバレとはいえ、ここは言葉を濁しておきます。
あれは夢だったのか、地獄だったのか、それとも罰だったのか。とにかく強烈です。
映画「ライトハウス」神話モチーフの解説
映画「ライトハウス」には、ギリシャ神話を中心とした神話モチーフが深く絡んでいます。
ただの“ホラー”や“スリラー”として見ると分かりづらいこの映画が、神話というレンズを通して観ることで、より立体的に浮かび上がってくるんです。
ここでは、映画に込められた神話モチーフをいくつかの切り口で解説していきます。
プロメテウス神話との関係
この映画の象徴のひとつが、「灯台の光(=フレネルレンズ)」です。
作中でロバート・パティンソン演じる若者は、この光に異常な執着を見せます。
触れることも許されない光。
その“神聖なもの”に触れた瞬間、彼は叫び、焼かれ、そして地面に転落する。
これはまさに、プロメテウス神話の再現だと思いました。
プロメテウスは、人間に火を与えたことでゼウスの怒りを買い、永遠に岩に縛られ、毎日肝臓を鷲についばまれる罰を受けることになります。
「神の領域に触れた者への罰」というテーマは、「ライトハウス」の最終盤の描写そのものと重なります。
プロテウスとの関係
一方で、ウィレム・デフォーが演じる灯台守の老人は、海の神「プロテウス」の象徴だとも言われています。
プロテウスはギリシャ神話に登場する老海神で、未来を予知できるが、それを知るには彼を捕まえて問い詰めなければならない。
ただし、捕まえるのが非常に難しく、自在に姿を変えるとされている存在です。
映画の老人も、口を開けば海の詩のような言葉を語り、しばしば人格が変わったかのように振る舞います。
ある時は暴君、ある時は親密な仲間、ある時は女のように涙を流す。
捕まえようとしても、正体がつかめない。まさにプロテウスのような存在です。
そして彼が守る「光」は神の火。
つまり、神の火を人間が得るには、まずプロテウスと対峙しなければならない…そんな構図も透けて見える気がします。
セイレーンと人魚の誘惑
映画中盤から登場する人魚も、神話的な存在です。
人魚は単なる幻想の象徴であると同時に、古代ギリシャの「セイレーン(セイレン)」を思わせます。
セイレーンは美しい歌声で船乗りたちを誘惑し、座礁させて殺す存在。
映画における人魚も、性の対象として主人公の中で肥大し、正気と理性を破壊していきます。
この人魚のシーン、正直かなり不気味ですが、そこには「禁じられた欲望への執着」「海に飲まれる人間の性」という、神話的な教訓も織り込まれているように感じました。
映画「ライトハウス」の演出
この映画って、映像も音も言葉も、すべてが狂気の語り部になっていて、ほんとゾクッとするんですよ。
白黒映像とアスペクト比が語るもの
まず真っ先に印象に残るのが、この映画の白黒映像と、1.19:1のアスペクト比。
これは昔のサイレント映画の比率で、今の映画スクリーンに比べてすごく縦長。
視野が狭く感じられて、観ていて圧迫感を覚えるんですよね。
閉所での人間ドラマ、というテーマにぴったりです。
色を排除したのは「時代性」もあるけど、それ以上に、“現実と幻想の境界をあいまいにする”ための演出だと思いました。
色がないことで、すべてが象徴っぽく見えてくる。
光と闇、理性と狂気、生と死が区別できなくなってくる。
見る側も、少しずつおかしくなってくるんです。
音響:沈黙と咆哮の使い方
この映画、音の使い方も異常です。
特に「灯台の霧笛」の音。
あれが定期的に響いてきて、ずっと頭の中で鳴り続けてるような感じがする。
この霧笛、ただのBGMじゃなくて、“神の声”のようにも感じる。
終盤、光に触れた瞬間にウィンズローが発する絶叫と、音の洪水が重なって、もう“神の啓示”か“天罰”の音にしか聞こえません。
あと、沈黙の使い方も巧みです。
酔いから醒めて、現実をふと見つめ直した瞬間の静けさ。
あの対比で、人間の孤独とか、理性の残滓がぐっと際立ってくるんですよね。
セリフの違和感:詩のような呪文
ウェイク(ウィレム・デフォー)のセリフ、よく聞くと異常なんですよ。
海の神話、航海詩、聖書…いろんな言葉を引用したり混ぜたりしながら、韻を踏むような喋り方をする。
「酒を拒んだら呪われろ」とか「海の怒りが貴様に牙を剥くぞ」とか、完全に呪詛です。
でも、これが“狂気の演技”というより、むしろこの男自身が神話の登場人物みたいになってる。
トーマス・ウェイクって人間がいるというより、「海の精霊」が人の皮を被って灯台を守ってる感じ。
あと、面白いのがセリフの記憶が曖昧にされる演出。
ウィンズローが「お前さっき言っただろ?」って問い詰めると、「言ってない、そっちがそう言った」とか返される場面、何度もありました。
これ、観てる側も“あれ、どっちが正しかったっけ?”と混乱させられるんです。
記憶の曖昧さは、まさに狂気の入り口。現実がねじれてるんですよ、この映画の中では。
演出全体に通底するのは「神に近づくことへの代償」
白黒映像、縦長の画面、音の洪水、韻を踏むセリフ、幻想と現実の交錯。
すべてが「人が神の光に触れようとした罰」の構成要素になっています。
この映画、ジャンルとしてはホラーでもスリラーでもファンタジーでもあるけど、根底には「人間の傲慢への罰」「理性の崩壊」「神話的死の儀式」っていうすごく古典的なテーマがある。
そしてそれを、視覚、聴覚、言葉、構造、すべてで語ってくるのがすごい。
これはもう、映画というより“呪術的体験”だと思ってます。
映画「ライトハウス」感想
観終わったあと、まず思ったのは「なんだったんだこれは…」っていう戸惑いでした。
でも不思議と、頭から離れない。白黒で静かな映画なのに、ものすごく騒がしい。
ずっと、心の奥をかき乱されてるような感じがするんですよね。
最初は、孤島での共同生活にだんだん息が詰まっていく物語かと思ってたんです。
でも途中から、これは“何かが壊れていく話”なんだってわかってきた。
理性とか、時間の感覚とか、自分が何者かっていう意識とか。観てる自分まで、だんだん揺らいでくるんです。
特に印象的だったのが、ウィレム・デフォーの存在感。
あの人、もう人間じゃなかった。どこかの神話から抜け出してきた海の化け物みたい。
怖いんだけど目が離せない。
怒鳴り声ひとつで空気が一変するし、狂気と哀れさが同居してるような目をしてた。
ロバート・パティンソンの演技も見事で、静かに狂っていくさまがほんとリアル。
目つきも立ち方も変わっていくのがわかって、「あ、この人もう戻れないな」って感じたときはゾクッとしました。
白黒の映像と縦長の画面も、最初は見づらいなと思ったんですけど、だんだんその“圧迫感”が癖になってくる。
視界が狭いから、常に息苦しい。
でもそれが、この映画の世界にはぴったりなんですよね。どこまでも逃げ場がない感じがして。
あと、音。あの霧笛の音。何度も鳴ってくるたびに、じわじわ不安が膨らんでいって、最後には完全に頭の中に入り込んできた。
あれはもうBGMじゃなくて、呪いみたいなもんです。
正直、ストーリーはよくわからない部分も多かったし、「結局どういう意味だったの?」ってなってる人も多いと思います。
でも、個人的には“理屈じゃなく体験する映画”なんだと思いました。
観終わったあと、感情がざわざわしたまま眠れなくて、次の日もずっと考えてました。
なんか、自分の中の“見たくない部分”をそっと引きずり出されたような感覚。
怖い、でも美しい。わからない、でも惹かれる。そんな映画でした。
映画「ライトハウス」無料視聴の方法
この映画「ライトハウス」、なかなか地上波ではやらないし、レンタルショップでも見つけにくいんですよね。
でも実は、U-NEXT(ユーネクスト)をうまく使えば、実質無料で観る方法があります。
わたしも実際にこの方法で「ライトハウス」を観ました。
U-NEXTには、31日間の無料トライアルがあるんです。
これに登録すると、見放題作品がタダで観られるうえに、600円分のポイントも最初からもらえるんですよ。
で、「ライトハウス」はこのポイントを使って視聴するタイプの作品だったので、その600ポイントでそのまま観られました。
つまり、お金を一切かけずに視聴OKってことです。
無料トライアルの間に解約すれば、料金も一切かからないので安心。
もちろん、他の映画やアニメ、ドラマも見放題で楽しめます。
わたしの場合、「ライトハウス」観たあとに怖くて寝られなくなったので、別のゆるい映画を続けて観てしまいました…。
こういう使い方もアリですよね。
登録も解約も、スマホやパソコンから数分でできるくらい簡単です。
「難しそう…」って思ってたけど、拍子抜けするくらいすぐでした。
U-NEXTで「ライトハウス」を無料視聴する手順
ここに手順をさらっと書いておくと、こんな感じです。
- U-NEXTの公式サイトにアクセス
- 31日間無料トライアルに登録(クレジットカード必要)
- アカウントにログイン後、「ライトハウス」と検索
- 表示された作品を選んで「ポイントを使って再生」をタップ
- あとはじっくり、狂気の海に沈むだけ…
ライトハウスのような“クセ強めの映画”って、なかなか映画館じゃ観られないし、配信があるうちに観ておくのがおすすめです。
気づいたら配信終了してた…ってこと、結構ありますからね。
「ただの無料お試し」って思って始めたU-NEXTですが、気づいたら結構使い続けちゃってる人、多いみたいです。
映画好きにはかなりありがたいサービスだと思います。
※配信状況は変更になることもあるので、登録前に公式サイトで最新情報をチェックしてくださいね。
まとめ
この映画を観たあと、自分の中で何かが静かに崩れた気がしました。
映像はモノクロなのにやたらと鮮烈で、音も最低限なのに不気味で、しかも終わったあと何度も頭の中でぐるぐると場面が再生される。
心をかき乱される作品でした。
「孤独」と「権力」、「男の役割」といったテーマが、まるで古代の神話をなぞるように描かれていて、見る人によっては完全に別の映画に見えるんじゃないかと思います。
私にとってはこれは、狂気の中にある静けさというか、心の奥底のざわめきに形を与えた映画でした。
ひとことで言い表せない。
説明するたびに違う言葉が出てきてしまうような作品です。
もしまだ観ていない方がいたら…うーん、簡単に「おすすめ!」とは言いにくい。
でも「何かに取り憑かれたい」「普通の映画に飽きた」と思っているなら、ぜひチャレンジしてほしいです。
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