辞書って、ただの言葉の集まりでしょ？
そう思っていた自分が、まさか涙を流すとは思いませんでした。
映画『博士と狂人』は、言葉に人生を捧げた二人の実在の人物を描いた、静かで壮絶なヒューマンドラマです。
誰にも理解されない孤独の中で、言葉がたった一つの希望になっていく――そんな物語に、胸をつかまれて離れませんでした。
映画「博士と狂人」解説
19世紀のイギリスで巻き起こった、英語辞典を巡る壮大で奇妙な実話をベースにした映画『博士と狂人』。
主演にメル・ギブソンとショーン・ペンという豪華な顔ぶれを迎え、2018年にイギリス、アイルランド、フランス、アイスランドの合作として制作されました。
観たあと、心の奥深くにずしんと残るような映画です。
この作品、ただの歴史ドラマとは一線を画しています。
言葉に魅せられた二人の男が、一冊の辞書を通じて互いの孤独を埋めていく様子が、静かで、でもものすごく力強く描かれているんです。
自分も最初は「辞書作る話って地味なのでは？」なんて思ってたんですが……観終わるころには完全に心を掴まれてました。
涙も出たし、静かに胸が震えました。
映画「博士と狂人」あらすじ・ネタバレ！
映画の主人公は、スコットランド出身のジェームズ・マレー。学士号を持たない独学の言語学者でありながら、オックスフォード大学が進める英語辞典編纂計画の責任者に抜擢された人物です。
いわゆる“叩き上げの天才”というやつですね。
この計画、単に単語を集めるだけじゃなく、シェイクスピアの時代まで遡ってすべての英単語を用例とともに記録しようという、とんでもないプロジェクトだったんです。
気が遠くなるような作業量で、しかも予算も人手も足りない。普通なら諦めます。
けれど、マレーは諦めませんでした。むしろ斬新な手法に打って出ます。
「英語を話すすべての人々」に助けを求めたんですね。学者だけじゃなく、一般人にも単語とその用例をカードに書いて送ってほしいと全国に呼びかけました。
この方法が、運命の出会いを引き寄せていくんです。
狂人と呼ばれた男との出会い
もう一人のキーパーソンはウィリアム・チェスター・マイナー。
アメリカ人の元軍医で、南北戦争の後遺症から深刻な精神疾患を抱えていました。
ある幻覚に苦しめられ、誤って無実の男性を射殺。
その結果、ブロードムーア刑事犯精神病院に収監されてしまいます。
物語の中盤、マイナーが偶然手に取った書物の中に、マレーが全国に送った「言葉募集の声明文」が挟まっていました。
それを読んだ瞬間、マイナーの内側で何かが弾けたように、辞書作りに没頭していきます。
部屋に引きこもり、1日中カードに単語と引用文を書き続ける。
この姿、どこか鬼気迫るものがありつつ、同時に救いを感じさせました。
書きながら自分自身が癒されているようにも見えるんです。
映画では細かい手元の描写が多くて、それがまた美しい。
鉛筆の音、紙をめくる指先、光の差し方……ちょっと涙が出ました。
二人の間に生まれた友情
マレーの元に、ある日突然、大量のカードが届きます。
差出人は精神病院に収監されているマイナー。
その精度と内容の濃さに、マレーは驚きを隠せませんでした。
しかも、送られてきた単語と用例はどれも辞書にぴったりのものばかり。
そこから文通が始まり、やがて面会へと発展していきます。
はじめてマイナーと対面したときのマレーの表情、ちょっと複雑でした。
尊敬の念と戸惑い、でもすぐに同志として認めていくんですね。
その心の動きがすごく丁寧に描かれていて、観ている側も一緒に息をのんでしまいます。
この二人のやりとりが映画の核になっていて、静かだけれどものすごく濃密。
知性と孤独、信頼と贖罪が交差する。
こういう関係性ってフィクションじゃなかなか描けない気がします。
心を通わせた女性との出会い
マイナーにはもう一つ大きな転機がありました。
誤って命を奪ってしまった男性の未亡人、イライザ・メレットとの関係です。
最初は罪の償いとして、軍支給の年金を渡そうとしただけ。
でも、やがて言葉を通じて少しずつ心が近づいていきます。
イライザは読み書きができなかったため、マイナーが文字を教えました。
その時間がとても温かくて、優しくて、静かな幸せに満ちていました。
けれど、幸せが訪れると同時に、マイナーの内なる苦しみが爆発してしまうんです。
ある日、イライザから届いた手紙の中の言葉「愛があれば、その先は？」に激しく動揺します。
自分が愛を受け入れることで、再び誰かを傷つけるかもしれない。
そんな恐れから、とんでもない行動に出てしまいました。
あまりにも痛ましくて、思わず目をそらしてしまいました。
終盤の衝撃と、ふたりの別れ
第一巻がついに完成し、マレーはその功績によって博士号を授与されます。
でも、喜びは束の間でした。
海外からの批判や理事会の圧力が押し寄せ、責任を問われてしまうんです。
さらに、マイナーの行動が新聞に取り上げられ、世間の反発も強まります。
精神病院の院長による非人道的な治療が始まり、マイナーは見る影もないほど変わり果ててしまいました。
それでもマレーは諦めませんでした。
最後の望みを託して、時の内務大臣ウィンストン・チャーチルに直訴します。
そして、釈放ではなく国外退去という形で、マイナーはようやく病院の外へ出ることが許されたんです。
ラスト、二人が再会し、固い握手を交わすシーン。
静かで、でもものすごく強い感情がこもっていて、涙が止まりませんでした。
もう、あの握手だけでこの映画を観た価値があるとすら思えました。
映画「博士と狂人」感想
この映画、辞書の話だけじゃないんです。
むしろ、人が「言葉」によって救われていくプロセスを描いた作品なんですよね。
知識や教養じゃなくて、言葉に宿る魂が人をつなぎ、癒す。
そんなテーマが根底にあります。
マレーのように、学歴にこだわらず自分の信念で道を切り拓いた人物にも心惹かれました。
でもそれ以上に、マイナーのように傷つきながらも自分の中の光を信じようとする姿に、どうしようもなく胸が打たれたんです。
個人的な話になりますが、自分も昔、どうしようもなく孤独だった時期があって。
言葉を読むこと、書くことでなんとか自分を保っていた経験があります。
この映画を観ながら、あの頃の気持ちがぶわっと蘇ってきました。
『博士と狂人』は、派手さはありません。
でも、深く深く心に染み込んでくる作品です。辞書なんて地味でしょ？と思っている方にこそ、ぜひ観てほしい。人生を変えるような映画かもしれません。
静かだけど、力強く、そしてあたたかい。
そんな物語を探している方に、心からおすすめしたい一本です。
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まとめ
映画『博士と狂人』は、言葉に救われた二人の男の実話に基づいた、感動と衝撃に満ちた作品です。英語辞典という地味に見える題材の裏に、人間の魂の深い葛藤と希望が描かれています。
実話をもとにしたストーリーが好きな方や、言葉の力を信じている方にはぴったりの作品だと思います。観ることで、誰かと深くつながることの意味を改めて考えさせられるでしょう。
きっと、静かに心に残り続ける映画になるはずです。
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