映画『アルゴ』は、1979年にイランで発生した実際の人質事件を元に作られた作品であり、アカデミー賞作品賞を受賞するなど高い評価を受けました。
この映画は、CIAが実行した世紀の作戦の一環として、イラン革命の最中に在イランアメリカ大使館で起きた人質事件から6人のアメリカ人を救出する計画を描いています。
映画のストーリーは緊迫感があり、視覚的にも非常に引き込まれるものですが、実際の事件と映画にはいくつかの違いも存在します。
この記事では、映画『アルゴ』で描かれた実際の出来事を振り返り、映画との相違点を解説していきます。
映画「アルゴ」実話の元ネタ事件の在イランアメリカ大使館人質事件の詳細
1979年11月4日、イランでアメリカ大使館が占拠される事件が発生しました。
イラン革命が進行中で、アメリカとイランの関係は非常に悪化していました。
イラン国内でパーレビ国王の支持層と革命勢力が対立し、最終的にパーレビ国王はアメリカに亡命します。
この亡命が引き金となり、イランの反米感情が爆発。
数千人のデモ隊がテヘランにあるアメリカ大使館に押し寄せ、大使館の占拠を開始したのです。
占拠された大使館では、50人以上のアメリカ人が人質となり、その後数週間にわたり解放されることはありませんでした。
6人のアメリカ人外交官たちは何とか脱出し、カナダ大使の家に身を隠しました。
しかし、それ以外の人質は極めて危険な状況に置かれ、解放される兆しは見えませんでした。
事件の背景と経過
イラン革命が進行していた1979年、アメリカは旧王政（パーレビ政権）を支援していたため、革命政府から非常に強い反感を買っていました。
特に、アメリカがパーレビ国王に対して政治亡命を許可したことは、イラン人々にとって耐え難い裏切り行為と受け取られたのです。
11月4日、数千人の抗議者がアメリカ大使館を取り囲み、占拠しました。
彼らは、アメリカ政府に対して国王の引き渡しを要求し、アメリカ大使館内にいる外交官たちを人質に取ったのです。
占拠したデモ隊は、アメリカに対して強い憎悪を抱き、交渉を求める政府の呼びかけを拒絶しました。
その後の交渉は長引き、60日以上の人質拘束が続きます。
その中で、アメリカ政府は人質の解放を最優先事項として、さまざまな方法を模索しますが、状況は悪化する一方でした。
外交的な解決の兆しは見えず、最終的にCIAの極秘作戦が動き出すこととなります。
CIAの極秘作戦「アルゴ」
映画『アルゴ』の中心となるのは、CIAが実施した「アルゴ作戦」です。
アルゴ作戦とは、脱出した6人の外交官を「映画の撮影スタッフ」に偽装し、イランから脱出させるという奇策でした。
映画のストーリーでは、CIAのトニー・メンデス（ベン・アフレック）が中心となり、この計画を立案します。
作戦の詳細
トニー・メンデスは、映画の中で描かれるように、CIAの工作員としてイランに潜入するため、映画『アルゴ』という架空の映画の撮影を計画しました。
ハリウッドで映画の製作発表を行い、マスコミの関心を集め、その結果、イランに潜伏する6人のアメリカ人を映画のロケ地巡りに誘い出すという大胆な作戦を立案します。
この作戦では、映画を撮るという名目で、6人をイランから出国させるために必要な道具や証拠を準備しました。
具体的には、映画のポスター、脚本、広告、さらには出演者やスタッフ名簿まで準備し、偽の映画製作を装いました。
また、この作戦において重要だったのが、ハリウッドのスタッフや俳優たちの協力です。
映画の監督やプロデューサーたちは、この作戦が機密事項であるため、協力を惜しみませんでした。
映画のロケ地探しのために、偽の映画撮影をイランで行うという名目で6人を脱出させることができたのです。
6人の脱出
作戦が進行する中で、6人はそれぞれ異なる役割を演じることになります。
偽の映画スタッフとして、トニー・メンデスと共に6人はイラン国内でのロケハンを行うという名目で、テヘランを脱出し、最終的にはイラン領空を脱出することに成功しました。
しかし、作戦は順調ではありませんでした。
途中で不測の事態が発生し、作戦の中止を迫られる場面もありました。
映画では、アメリカ政府からの指示で救出計画が一時中断される場面が描かれますが、実際には緊迫した状況の中で、トニー・メンデスは必死に計画を守り続け、最終的には6人を無事に脱出させることができました。
映画と実際の出来事との違い
映画『アルゴ』は実際に起こったイランアメリカ大使館人質事件を元に作られた作品ですが、そのストーリーは映画として観客を引きつけるために緊迫感が増し、時間軸を圧縮して描かれています。
実際の事件は、映画のようなドラマティックな展開や即時の行動ではなく、もっと慎重で計画的に進められていたことが多かったのです。
映画と実際の出来事にはいくつか重要な違いがありますが、その違いが物語に与える影響をより深く考察することは、実際の事件の背景を理解するためにも非常に重要です。
登場人物の一部
映画『アルゴ』では、ストーリーの主軸としてトニー・メンデス（ベン・アフレック）が描かれ、彼が唯一の主人公のように感じられます。
トニーはCIAの工作員として、6人のアメリカ人をイランから脱出させる任務に従事します。
映画では彼の行動に焦点を当てることで、物語が一貫して進んでいきますが、実際にはトニー一人だけでなく、彼をサポートする多くの人々が関与していました。
たとえば、映画に登場するカナダ大使のケン・テイラー（ヴィクター・ガーバー）や映画の製作に関わるハリウッド関係者が大きな役割を果たしていますが、実際には、CIA内部の複数のスタッフやカナダ政府の更なる支援者が不可欠でした。
映画で描かれるように、カナダ大使がすべてを切り盛りしているわけではなく、彼だけでなく、バックオフィスで支援を続けた者たちの協力も重要でした。
また、映画ではハリウッド俳優や映画業界の人々が計画を助ける形で描かれていますが、実際にはその協力者も非常に多岐にわたります。
映画でトニーが「アルゴ」作戦を立案するために協力したハリウッド関係者の多くは、架空の映画製作を通じて実際の脱出計画に深く関わっており、映画製作の名目でイラン国内に潜入するために尽力したのです。
実際、アメリカ映画業界の中でも一部の人々は国際的な仕事をしていたため、こうした外交的なミッションにもある程度の協力が可能だったと言えるでしょう。
時系列とストーリー展開
映画の『アルゴ』では、出来事が非常にドラマティックに、そして迅速に進行する形で描かれています。
映画の最初では大使館占拠から数週間の間、テヘランでの緊張感を高めるために、トニーが作戦を立案し、計画を実行に移す過程が急いで描かれています。
しかし、実際にはこのプロセスは非常に時間をかけて慎重に準備されていました。
映画のように一気に作戦が立ち上がるわけではなく、CIA内でもその計画が実行可能かどうか慎重に検討されたという事実があります。
実際の事件では、映画製作に関する計画は数週間にわたり慎重に行われ、トニーはイランへの旅行計画やハリウッドの協力者を慎重に手配し、映画の脚本作成や広告準備も周到に行われました。
また、ロケハン（撮影場所の下見）や撮影許可の申請も、映画のように迅速に進められたわけではなく、イラン側との交渉には多くの時間がかかったことも記録されています。
映画では、トニーが即座に作戦を決定し、実行に移す描写がありますが、実際にはその間に何度も作戦を中止するか、再調整を行うという難しい判断が求められました。
たとえば、映画の中で最も緊迫したシーンの一つは、トニーがイランの大臣と会うシーンですが、実際にはその交渉はもっと長期的で慎重に行われたものであり、映画のように一度の会話で問題が解決されたわけではありません。
また、作戦実行後、イランから脱出する段階でも、時間との戦いがありました。
映画では、航空券の手配が急いで行われ、脱出劇の緊迫感が強調されていますが、実際にはその脱出の準備も慎重に、詳細に計画されました。
作戦が失敗する可能性を避けるため、少なくとも数回にわたり作戦の進行を見直し、徹底的にリスク管理が行われていたのです。
テンションと緊迫感
映画『アルゴ』は、非常に高いテンションと緊迫感を持った作品として知られています。
視覚的にも迫力あるシーンが多く、観客を引き込む構成になっています。
例えば、空港での出国審査のシーンや、イランの政府関係者からの監視をかいくぐりながら、6人を脱出させるシーンは、映画ならではの緊迫感を演出しています。
一方で、実際の事件は映画のように常に息を呑むようなハラハラする展開が続いたわけではなく、もっと冷静に計画的に進行していた部分も多いと言えます。
映画では、緊迫したシーンが多く描かれますが、実際には冷静に計画を立てたおかげで、劇的な場面が少なかったことが裏側にあったと言われています。
映画が描く緊迫感を最大化するためには、観客を引きつける必要があります。
そのため、トニーや他の関係者の行動は非常に大胆かつ速やかに進んでいき、シーンのテンポも映画的に速くなっています。
しかし、実際にはそのような劇的な瞬間を作り出すためには、非常に多くの調整と準備が行われ、時間をかけてすべてを安全に実行できるように配慮されていたのです。
また、映画の中では、作戦の成功を高揚感を持って描くシーンが多くありますが、実際には作戦が完全に成功する前から、計画者たちの間で慎重な気配りが求められていました。
映画が描く「逃げるシーン」は、確かに緊迫感があるものの、実際にはもっと冷静に行動していたと言えるのです。
まとめ
映画『アルゴ』は、実際に起こった事件をもとにして描かれた非常に緊迫したサスペンス映画です。
映画と実際の出来事にはいくつかの違いがあるものの、基本的なストーリーや作戦の内容は忠実に再現されています。
映画を見てその緊迫感に引き込まれる一方で、実際の事件の詳細に触れることで、その背景にあった複雑な政治的な事情や人々の協力の重要性を感じることができます。
映画が描く「アルゴ作戦」は、単なるサスペンスではなく、国際政治や外交、そして冷静な判断がいかに重要であるかを教えてくれる物語でもあります。
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